J:COM浦安音楽ホールのレジデンシャルアーティスト クァルテット・エクセルシオ公演にゲスト・アーティストとして吉田誠さん(クラリネット)が登場します。
浦安音楽ホールでは初めての出演となる吉田誠さんにインタビューをしました。
拠点にされているパリと京都について
――京都とパリを拠点に活動をされており、パリは研鑽を積まれた先でもあります。パリは、一口でいってどんな街でしょうか?今後のキャリアを築いていかれる上においても特別な場所だと思いますが、吉田さんを含めアーティストにとって、パリのどのような環境や雰囲気が特別なのでしょうか?
また、やはり文化や伝統といったものと関係が深い京都とも比べて、芸術家のお立場から、パリとの共通点、あるいは差異をお感じになっていることがあれば、それぞれ是非お教えください。
吉田:パリも京都も、街という場が教えてくれることは沢山あります。まずパリは街にアートが溢れています。それらを創造する沢山のアーティストがいます。音楽だけでなく絵画、彫刻、映画、建築、料理。パリだけでなく、フランス全体がアートを支える環境にあります。例えば、小さな街の教会で演奏会を開いたとしたら、町中の人がその演奏会を成立させるために助けてくれる。そんな環境です。自分自身が常に自然体で音楽に向き合える環境なので、芸術家という存在が街で生きていることが、ごくごく自然で当たり前に成立する。そんな日常です。そして日本で京都を拠点にする理由は、やはり街の歴史と伝統にあります。神社やお寺にふと訪れると、自分自身に生き方を語りかけてくるものがあります。とんでもない建築技法や美を計算し尽くしたお庭。常に何かを教えてくれるものが存在しています。そして街にはそれらを支えるたくさんの職人がいます。自分が向き合っていることにとことんこだわり抜いたとしても、それがいいものでないといけない。そんな雰囲気もまた自分自身が自然体で音楽に向き合い続けられる環境を作ってくれていると思います。伝統や過去の先人たちが築いてきた知性を大切に扱う。そういった部分でも、パリと京都はとても似ていると思っています。私にとっては音楽を自然体で演奏し、向き合い続けることがとても大切なので、今これらの街に住んでいます。
エクセルシオとの共演について
――初共演となるクァルテット・エクセルシオについて、どのような印象をお持ちでしょうか?室内楽とりわけカルテットとの共演は、今の吉田さんにとってどのような意味がありますでしょうか?カルテットに限らず、他の楽器とご一緒されるときに心がけていらっしゃることはありますか?エクとのクラリネット五重奏は、(音楽的に)どのようなイメージを描いていらっしゃるでしょうか?
吉田:音楽に対して常に真摯に向き合っていて、作品が持つ内面を深く追求しているような印象です。実は何年か前に草津音楽祭でクァルテット・エクセルシオのメンバー数名と草津の講師とで、ある作品を演奏させていただいたことを覚えていますが、今回は遂にエクセルシオのメンバー全員と共演する機会をいただけて、楽しみですし、とても光栄です。やはりカルテット専門のチームに対しては特別な思いがあります。同じメンバーで、違う4人の人間で、何十年とアンサンブルを積み上げていく。その作業は、並大抵ではない努力とチームワーク、そして音楽の蓄積がなければ成り立たないものです。そんな中に参加させていただくわけですから、多少なりとも覚悟が必要です。
クラリネット奏者にとって、カルテット編成との共演は、音楽人生においてとても大事です。この五重奏の編成には重要な作品が沢山あり、中でもモーツァルトやブラームスなど素晴らしい作品が多いです。そしてクラリネット五重奏は、確かに作曲家がクラリネットのために書いていますが、私は室内楽においては共演している楽器と真に共存し、全体でまるで1つの楽器のように演奏したいといつも思っています。弦楽器と共演するときは、弦楽器的な表現をやはり意識します。1つのアンサンブルとして本当に美しい響きを作ったり、楽器という存在を忘れる様な音楽ができたときに、真の感動が生まれると信じています。
そういった意味でも、自分自身の大きな枠での音楽のプランはあっても、最初のリハーサルまで自分での中で独自の響きや細かい音楽性を作り込まないようにしています。
モーツァルト
――これまでモーツァルトの作品を演奏する機会も多くあったかと思いますが、吉田さん自身、モーツァルト作品のどのようなところに魅力を感じますか?また、今回エクセルシオと演奏する「クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581」作品の聴きどころを教えてください。
吉田:同じ演奏は二度とできない作品だと思います。それだけモーツァルトの音楽には即興性があり、何千通りの演奏の仕方があると思います。またそれができる余白が音楽の中にあると思います。そしてモーツァルトの音楽には、本当に純粋でピュアなものを感じます。自分自身が色々考えたとしても、演奏する際には、最後は心から純粋になって音楽に向き合わないと良い音楽が出てこない。そんなふうに感じています。今回はモーツァルトが本来はバセットクラリネットのために書いたと言われているオリジナルの楽器で演奏します。バセットクラリネットで演奏することで音域が広がり、通常のクラリネットで演奏するよりも、この作品の声部との対話がもっと増えて、それだけでも立体的な音楽になります。また各楽章ごとに作曲スタイルが変わり、1楽章から4楽章にかけてとてもドラマチックな作品だと思います。1つの映画を見ているような、1冊の本を読んでいるようなそんな魅力があります。エクセルシオと作り上げていくそのドラマを是非楽しんでいただきたいです。
クラリネット奏者を目指したきっかけ
――J:COM浦安音楽ホールにも楽器の練習で来館される学生がたくさんいます。吉田さんはいつごろからプロの演奏家を目指そうと決められましたか?日々の練習の中で、学生のころから変わらず心がけていらっしゃることがあれば教えてください。
吉田:子供の頃は遊びで趣味で音楽を演奏していました。年2回の発表会の前に少し練習する程度でした。でもピアノ演奏することが好きで、遊びで触っていたと思います。両親ともに音楽関係者だったので、家には沢山のCDやスコアがあって、クラシック音楽に自然に向き合える環境はあったと思います。子供の頃の趣味の1つとして、寝る前に必ずドビュッシーのピアノ作品を聴くことや、オーケストラ作品を爆音でかけてスコアを見ながらなんちゃって指揮者をして遊んでいた思い出があります。15歳の頃、クラリネットという楽器に出会いました。吹奏楽部に入ったことがきっかけだったのですが、響く廊下で初めて音を出したときにその音色にエクスタシーを感じました。その瞬間から、僕はこの楽器で人生を生きるんだと心に決めました。
日々の練習の中で特に決めている事は無いのですが、まず音楽があって、その次に楽器がある、ということです。良い音楽をしたくて、表現したいことがあって、楽器を練習する。このプロセスはずっと変わっていないと思います。
ホールでお会いする皆さんへ
――最後に、来場予定のお客様へメッセージをお願いします。
吉田:私にとって浦安での演奏は初めてですが、初めての場所で、自分自身も心から大好きなこのモーツァルトの作品を演奏することができて、しかもそれをお客様に聴いていただけることを光栄に思っています。モーツァルトの作品の中でも、世界的にも特に大人気なこの作品。一度として同じ演奏がないこの作品ですが、今回皆様との出会いによって生まれてくる演奏を自分自身とても楽しみにしています。会場にて皆様とお目にかかることを心待ちにしています!
クァルテット・エクセルシオ公演 ゲスト・アーティスト 吉田 誠(クラリネット)
日時 2023年10月14日(土)
14:00開演(13:30開場)
会場 J:COM浦安音楽ホール コンサートホール
料金 【全席指定】友の会会員3,800円 一般4,000円
演奏曲目などはこちらをご覧ください>>公演詳細ページ
<お電話でのご予約>
J:COM浦安音楽ホール 047-382-3035(受付時間 9:00~21:00 第二・第四火曜日は休館)
吉田誠 写真クレジット
上:©Aurélien Tranchet
下:©Goro Tamura